「機能」
あるとき
目の奥の辺りで
かすかな明滅が始まる
それは本当に小さく弱く
ほとんどないような光だけれど
僕はその「機能」が
自分に備わっていることなど
とうに忘れていたのだけれど
その明滅が始まるとき
自分の存在や世界の理(ことわり)や
あらゆることの意味
意味それ自体
理由という理由
価値という価値
全てがうっすらと消えていく
この世界は
琥珀に閉じ込められた蜻蛉のように
全く動きを持たず
運命と名づけることさえ許されずに
1ミリの遊びもなしに凍っている
ゆっくりと
僕の目の奥の光の明滅が
琥珀を熔かし
やがて破れめが広がっていく
誰にも備わっているはずの
その「機能」が
僕の中でめざめる
それは希望ではなくて
定めなのだけれど
今日の詩
今日の短歌
心ではその罪に手を染めしこと身の竦むほど数多ありけり
今日の短歌
みんな自分自身の物理法則を探してるニュートンはもう見つけた
今日の短歌
夜更けの煮卵は食欲の失せた頃に茹で上がってたいがい猫の胃袋に収まる
今日の短歌
出鱈目を話す君には事実より思いの丈のさぞ長々し
今日の短歌
どうして君はちょうどいい湯加減のお風呂を水でうめてしまうんだろう毎晩
今日の短歌
人生に意味などないと決めつけた夜大根の煮物がうまい
今日の短歌
言葉より湧き出る象(かたち)おかしくて「たまゆらに」と唱えてみる「たまゆらに」と
今日の短歌
たくらむゆとりさへなくしているとき私はただの私になる
今日の短歌
日が変わるたびに初めて歌に目覚めるように一つ目の字から手探りで積む