今日の詩

 赤いという言葉は知っていて
 赤
い色を知らないように
 
 甘いという言葉は知っていて
 甘い味を知らないように
 
 その人は
 明日という言葉も
 昨日という言葉も知っていて
 それをずいぶんと正しく使うこともできて
 それでも昨日も明日も知らなかった
 
 その人の前には果てしない広がりがあったし、
 その人の後ろも同じようだったけれど
 それは時間の箍を外すように
 永遠と一瞬を一つにして広がっていた
 
 かたる言葉も全て
 まどう心も全て
 うつろう時間の牢獄の中にあって
 その広がりの中にはなかった

Posted by hasunoza