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焦ることと待つことについて
 
 長い間
 時間を持たない人と暮らしてわかったけれど
 彼は決して焦らない
  
 それは全く当然で
 焦るというのは時間に追われるということで
 時間を持たない人が
 時間に追われることはないのだ
 
 時間を持たない人は
 決して焦らなかったけれど
 待つのはとても苦手だった
 
 そもそも彼には
 待つということが理解できなかった
 
 それも全く当然で
 時間を持たない人には
 待たなくてはならない「まだ来ぬ時間」もなかったのだ
 
 ところが時間の檻の中で生きている人の話す言葉の半分は
 まだ来ぬ時間でできていて
 心も半分
 まだ来ぬ時間で埋まっていたから
 
 時間を持たない人は
 全くワケがわからないまま
「まだ来ぬ時間」を待つことになった
 
 時間を持たない人は
 とても饒舌で
 巧みに言葉を話したけれど
 いつも「言葉の半分」は
 わけが分からないままなのです
 

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 赤いという言葉は知っていて
 赤
い色を知らないように
 
 甘いという言葉は知っていて
 甘い味を知らないように
 
 その人は
 明日という言葉も
 昨日という言葉も知っていて
 それをずいぶんと正しく使うこともできて
 それでも昨日も明日も知らなかった
 
 その人の前には果てしない広がりがあったし、
 その人の後ろも同じようだったけれど
 それは時間の箍を外すように
 永遠と一瞬を一つにして広がっていた
 
 かたる言葉も全て
 まどう心も全て
 うつろう時間の牢獄の中にあって
 その広がりの中にはなかった