今日の詩

2021年8月11日

 時間を持たない人
 
 あなたは知っているだろうか
 時間を持たない人のことを
 
 僕は幸いにも
 その人を知っている
 
 永く永くその人と暮らすうちに
 僕は気がついた
 その人は時間を持たないのだと
 
 初めのうち僕は
 いやずいぶん長い間僕は
 時間を持たないその人を
 ある感覚が失われているのだと思っていた
 
 例えば
 味わうことができないとか
 飛ぶことができないとか
 笑うことができないとか
 
 僕は長い間
 時間を持たないことは
 一つの欠落だと感じていた
 
 なぜなら
 その人はずいぶんと苦しんでいたから
 
 この人の世で
 時間を持たないことが
 どれほど不都合なことか
 その人は時間を持たないことで苦しんでいた
 
 あるとき
 僕の中に一つの考えが浮かんだ
 
 僕たちは時間の檻に囚われていて
 その人は檻の外にいる
 
 そう考えると
 時間を持たないことは
 何かの欠落ではなく
 むしろ囚われからの自由だった
 
 自由であることで
 苦しむ必要はない
 
 僕はそう思うようになった
 
 時間を持たない目でこの世界を眺めてみれば
 どれだけこの世界が窮屈なのか分かる
 
 僕は時間を持たないその人が
 なぜそれほど苦しむのかが
 少しわかるようになった
 

Posted by hasunoza