天井裏のゲコー
かつてはその薄暗い世界に
何年も何十年も
平穏な日々の続くゲコーの村があった
寡黙なゲコーたちは
薄くそしてはるかな時空を隔てて
明るい世界に暮らす
穏やかなニンゲンたちを見下ろしていた
ゲコーたちは
設けられた境界を越えず
薄暗い世界に
永く永く永遠と思える時を
ニンゲンたちを見守りながら
平和に過ごしてきたのだ
ある時明るい世界に別の住人がやってきた
開拓の意志に燃える男とその子は
神聖な境界を物ともせず
自動機械と耳をつんざく雷鳴を駆使して
薄暗い世界に光をとどかせた
眩い光と共に
丸く輝く二つの眼と鋭い爪を持った無慈悲の獣が
ゲコーたちの村を蹂躙したのだった
男とその子は
自分たちの犯した罪を知らなかった
その薄暗い世界に
どれほどの安らぎと平穏が満ち満ちていたかを知らなかった
今では白い抜け殻の遺跡となったその平和な村で
ゲコーは生きてきたのだ
永遠と思える長い時間を
静かに満ち足りて
家の守神として