天井裏のゲコー

2021年9月11日

 かつてはその薄暗い世界に
 何年も何十年も
 平穏な日々の続くゲコーの村があった
 
 寡黙なゲコーたちは
 薄くそしてはるかな時空を隔てて
 明るい世界に暮らす
 穏やかなニンゲンたちを見下ろしていた
 
 ゲコーたちは
 設けられた境界を越えず
 薄暗い世界に
 永く永く永遠と思える時を
 ニンゲンたちを見守りながら
 平和に過ごしてきたのだ
  
 ある時明るい世界に別の住人がやってきた
 
 開拓の意志に燃える男とその子は
 神聖な境界を物ともせず
 自動機械と耳をつんざく雷鳴を駆使して
 薄暗い世界に光をとどかせた
 
 眩い光と共に
 丸く輝く二つの眼と鋭い爪を持った無慈悲の獣が
 ゲコーたちの村を蹂躙したのだった

 男とその子は
 自分たちの犯した罪を知らなかった
 その薄暗い世界に
 どれほどの安らぎと平穏が満ち満ちていたかを知らなかった
 
   
 今では白い抜け殻の遺跡となったその平和な村で
 ゲコーは生きてきたのだ
 永遠と思える長い時間を
 静かに満ち足りて
 
せかいの守神として

Posted by hasunoza