真実ってやつを話してやろうか
まるで写真のネガポジのように
内側は外側で外側は内側なんだ
僕という内側が世界という外側を
ぐるっと囲んでのぞき込んでいる
本当は僕が外側で世界が内側なんだ
僕の目は世界という内側をのぞき込むノゾキメガネ
僕の手は箱庭のように世界を生み出す神の手
僕という虚空には何もないし
君という虚空にも何もない
僕らは本当はひとりなんだけど
名前も体も何もないひとり
ただこの世界で出会って
お互いを別々だと思ってる
右手で右手を握れないように
僕は僕を抱きしめられない
君も君を抱きしめられない
二人は虚空のひとりだから
この世界で出会って
やっと自分を抱きしめられる
真実
天井裏のゲコー
かつてはその薄暗い世界に
何年も何十年も
平穏な日々の続くゲコーの村があった
寡黙なゲコーたちは
薄くそしてはるかな時空を隔てて
明るい世界に暮らす
穏やかなニンゲンたちを見下ろしていた
ゲコーたちは
設けられた境界を越えず
薄暗い世界に
永く永く永遠と思える時を
ニンゲンたちを見守りながら
平和に過ごしてきたのだ
ある時明るい世界に別の住人がやってきた
開拓の意志に燃える男とその子は
神聖な境界を物ともせず
自動機械と耳をつんざく雷鳴を駆使して
薄暗い世界に光をとどかせた
眩い光と共に
丸く輝く二つの眼と鋭い爪を持った無慈悲の獣が
ゲコーたちの村を蹂躙したのだった
男とその子は
自分たちの犯した罪を知らなかった
その薄暗い世界に
どれほどの安らぎと平穏が満ち満ちていたかを知らなかった
今では白い抜け殻の遺跡となったその平和な村で
ゲコーは生きてきたのだ
永遠と思える長い時間を
静かに満ち足りて
家の守神として
右手で右手を掴むことについての考察
右手で右手を掴むことは
できない
まなこをそのまなこで見つめることも
かなわない
空海は言ったそうな
「近くして見がたきは我が心なり」と
曰く、自分という存在は
決して対象化することはできない
じゃ、どうするの
まずは
途方に暮れよう
きっと天国に帰った時は
きっと天国に帰った時は
ほんとに自分の家にいる様に寛ぐだろう
そこにはよそよそしさのかけらもなく
ほんの少しの疑いも湧いては来ないだろう
なぜこの世が地獄なのか
それはありとあらゆる瞬間に
他人の様な眼差しが忍び込むからだ
自分自身でいることに
どうしてこれほどのエクスキューズが必要なのか
頭の中には言い訳ばかりが詰まっている
きっと天国に帰った時は
飲めない酒をしこたま飲んで
絡む様にピアノマンに
あの歌をせがむだろう
そう、まるで我が家にいる様に
懐かしさと本当の脱力を味わいながら
カウンターに頭を横たえて
よだれを垂らしてニタニタと笑うんだ
しっかりと見れば見るほど
しっかりと見れば見るほど
ぼやけていくものは何
しっかりと見れば見るほど
ぼやけていくもの
それはあなたと私を分ける境界
しっかりと見れば見るほど
その境界はぼやけていって
あなたと私は溶けあい混ざりあう
しっかりと見れば見るほど
私もあなたも
来ては去り来ては去る
流れが形となる一瞬
しっかりと見れば見るほど
ひとりぼっちの私は消えて
あなたと一つの渦になる